タオルバカ1代 【中国のマーケティングは、碁盤の一枡だった!】㉕

(自分のポジションは碁盤の目)

 中国のビジネスにおいて、日本とは異なる顧客の分布の概念がありました。従来の日本では、「上流」「中流」「下流」に顧客を分類し、中流を狙いどころとする戦略が一般的でしたが、中国のビジネスでは状況が異なりました。

 百貨店のビジネスで成功していたのは、上流階級の顧客を獲得していたからで、これは第一統括のビジネス戦略がターゲットに成功した証と言えました。

 我々第2統括は、今後どこを目指すべきかを模索していました。第2統括としては、上流だけでなく中流の顧客も重要であり、それぞれのセグメントに応じた戦略が必要だと思っていました。価格競争やサービスの提供など、さまざまな要因を考慮しながら、新たなビジネス戦略を構築することが求められていました。

 時代の変化とともに、ユニクロに代表される「価格は下流」「品質は上流」という新しい商売形態が現れ、日本で大成功していました。しかし、この手法は必ずしも中国では通用せず、ユニクロでさえ一度撤退を余儀なくされていました。2度目のトライでは、「品質は上流」のまま「価格は中流」に変更したマーケティングに変更していたように感じました。中国に人々は、価格の安いものは信用しない傾向にありました。偽物に騙されてきた歴史からの感覚だったかも知れません。

 それでは、私たち第2統括は、どこを狙うか?13億人の人口と広大な土地を持つ中国で成功する秘訣を探っていると、ある日系会社の社長さんから貴重なアドバイスをいただくことがありました。「中流のポジションはない。成功する為には、自分のポジションは碁盤の目と思え」と教わりました。目から鱗が落ちる言葉でした。

 自分のポジションを明確にするために、「PRICE」「PLACE」「PRODUCT」「PROMOTION」の4Pの基本を思い出し、戦略を碁盤の目に合わせて調整していきました。

(百貨店が成功していたのは、トップに位置していたから)

 中国のマーケットを碁盤の目で考えてみると、百貨店での成功の理由が明らかになりました。第一統括は、高級タオルの分野でしっかりと存在感を発揮していました。このピンポイントな戦略がうまくはまっていました。北京に位置する新光天地という最高級な百貨店(日本で言うと三越本店のような位置づけ)に直営店を出店していました。

 品揃えは、もちろん高級品を中心に展開していますが、日本製の海島綿が特に売れ筋でした。聞くところによれば、レアアースなどで成功した富裕層が売り場に訪れ、一番高級なタオルを求めるとのことです。最高級の百貨店で最高級の商品を求める顧客が多いことを考えると、妥協のない品揃えが重要だと感じました。もちろん、そのような顧客だけでなく、幅広い需要に対応するために、高級な商品を中心に展開しつつ、素材に特長のある商品も提供していました。お店のコンセプト自体が、最高級の顧客に満足してもらうことを目指すことが、成功の鍵だったと思います。

 また、地方の新しい百貨店との商談に向かう際には、北京の新光天地店の直営店の成績を伝えることが、有利に商談を進める重要な要素となっていました。

(第2統括の方向性)

 私の結論として、第2統括の方向性は、「日本一のタオル企業」「上海自社工場製」「世界品質」という他社との差別化を明確にしたビジネス戦略を進めていくことでした。百貨店で築いたブランド力を顧客と結びつけることが鍵であり、待っているのではなく、積極的に業界での知名度向上を進めることを決意しました。第2統括の売上を上げるために、以下の3つの柱を明確にしていきました。

1)礼品マーケット(ギフト市場)

2)WEB(インターネットによる販売)

3)OEM(相手先ブランドのタオルを製造する)

 中国の土地は広大で、省を跨ぐと言葉も違えば習慣も異なります。そのため、所得差もあり、売れ筋も変わってくると考えました。知名度向上には展示会を利用することが近道だと考え、まずは全国のバイヤーが集まる深圳で開催される展示会に出展しました。その後、上海、北京、成都などで行われるミニ展示会にも積極的に参加していきました。深圳の展示会は規模が群を抜いており、地方で開催される展示会と比較できないほどでした。費用対効果を考慮し、地方の展示会にも手探りの状態で出展していきました。

(第一統括の代理店に怒られる)

 成都で行われた展示会に出展した際、第一統括の代理店から叱責された経験があります。試験的なブースが小さすぎて、高級感がなく、ブランドイメージが損なわれると彼らは怒りました。展示会の規模が小さいため、試験的なブースも小さい方がいいと安易に判断してしまったのですが、そのレベルでは出展しない方が良いと厳しく叱られました。彼らは成都や重慶エリアの百貨店で販売に尽力している代理店であり、自分たちがトップの立場にいることから、むしろ邪魔をされたと感じていたようです。彼らは百貨店の代理店として契約していましたが、地元の礼品会社とも繋がりがあったため、第2統括の売上が伸びることに消極的でした。特に、WEB販売の拡大に対しては不満を持っており、年2回行われる全国代理店会議でもその問題が議題に上がったほどでした。条件交渉によってさまざまな問題が生じる予感がしました。

(独占が好きな中国人)

 展示会で名刺交換した礼品会社を訪れ、売上を伸ばす方法について尋ねたところ、皆が同じ答えを返しました。「Uブランドを独占販売させろ」でした。中国が広大な土地を持つため、全国展開の販売網を持っているかどうかは判断が難しい状況でした。礼品会社は各省や都市に存在しており、どのエリアに独占権を与えるかを選ぶのは難しい課題でした。タオルをメジャーに扱っている礼品会社は中々見当たらず、タオルのギフト市場が未知の世界であったことから、商談では「北京の新光天地で最高級のタオルが好調に売れている」「上海の自社工場で製造している」「日本で最も優れたタオルの企業である」といったポイントを強調しました。

 相手方は独占契約を望んでいましたが、その販売力の実態を見極めるのが難しく、また全国の礼品市場に制限が加わることを嫌っていたため、独占権を許容せず、自由に販売できる形を選びました。今振り返ってみれば、1社に独占権を与えなかった判断が正しかったと考えています。

(北京、成都事務所の設立)

 商売の拡大に伴い、支店の開設を第1統括と協力して進めました。最初に上海は、売上が大きいとされる北京に事務所を設立しました。

 上海は経済の中心であり、北京は政治の中心として有名でした。北京市の広大な面積は首都としての重要性を示しており、東京都の約7.5倍だと聞いていました。有名な万里の長城も北京市の郊外に位置していますが、北京までの距離は中心から高速を利用しても1時間半かかるほどでした。地域に馴染むためにも、支店の設立を進めました。

 実際、我々が知っている中国語は標準語の「普通話(プートンファ)」ですが、各都市ごとに方言があり、発音や言葉が大きく異なりました。

 各地方にはその土地固有の方言があり、上海でも上海語が使われていました。困ったことがあると、外部から来た人たちが理解できないように、標準語を急にやめて上海語で話すことがありました。同様に、上海の会社である私たちが地方を訪れると、その地域の言葉が使われ、中国人同士でも意思疎通が難しくなります。方言で「謝謝」(ありがとう)を比較してみると、標準語の北京語では「シェシェ」ですが、上海語では「シャヤノ」、広東語では「ドーヂェッ」となり、これだけでも違いがありました。言葉だけでなく、習慣や食事の味も大きく異なり、それを認識しました。

 北京事務所は成功し、最初の事務所が手狭になり引っ越すほどでしたが、成都事務所は思ったほど成果を上げることができず、私の帰任前に閉鎖されました。

 遠隔地でのスタッフの管理は容易ではなかったことを覚えています。

(商売は全て前金)

 中国へ進出してきた日系企業の人々が最初に驚くのは、商売の全てが前金であることでした。どの企業も、入金は財務が管理し、入金を確認してから出荷許可が出ます。私たちは、当たり前のように日本で後払いの商売をしてきましたが、この常識は逆さまでした。与信管理ができないことや、商品を渡した後にお金を支払わない企業があるために、このルールが生まれたと思われますが、中国人のメンタリティの基本である「性悪説」から商売の常識になっていると考えられます。当然、第2統括にもこのルールが適用され、厳しく財務よりも入金がチェックされていました。第2統括は期日指定の納品が多いため、営業マンは出荷前になると先方の送金状況を細かくチェックするルーティンがあり、先方も当然のように対応してくれていました。これも企業の知名度によるものが大きかったと思います。契約時に30%、出荷前に70%の入金を確認してから出荷することが商売の基本として定着していました。

(WEB販売のSHOPを開設、独占販売契約を締結して売上を伸ばす)

 WEB販売に関しては、独占販売契約を締結して開始しました。複数の代理店を抱える選択もありましたが、WEB販売は全国からの注文を受けることが基本です。そのため、上海の企業と提携し、アリババグループが経営する「天猫(ティエンマオ)」という新しく立ち上げられたサイトに1号店を構築しました。天猫は出店が難しい高いハードルを持つサイトでしたが、この新規サイトで独自のプレゼンスを築くことで、中国全土からの注文を獲得するチャンスを掴みました。

 「天猫(TMALL)」は、「淘宝(タオバオ)」が個人も出店できる「C2C」型のサイトだったのに対し、「B2C」専用の新しいサイトとして設立されました。これは、淘宝では偽物やB品が多く販売されていたため、偽物の撲滅と同時に品質保証ができる企業のみが出店を許可されたためです。出店する企業は、顧客に品質保証を提供するために多くの書類を提出し、厳格な審査を受ける必要がありました。保証金や年会費を支払い、消費者に信頼を与えるためにあらゆる書類を提出しました。また、ライセンス商品や自社商品の販売許可証などの提出が義務付けられ、偽物の撲滅に向けた強い決意が感じられました。一流企業のみが参入できるサイトとしてスタートし、その後も運営されてきたことが、現在の売上につながっていると考えられます。

 このWEB事業への参入は、第2統括の売上に2年目や3年目に大きく寄与しました。売上の規模は急速に成長曲線を描き、2年目には10倍にまで売上を伸ばしました。そして3年目にはさらにその売上を倍加させ、日本円に換算すると1億円に迫る勢いでした。興味深いことに、この年は天猫で有名な独身の日(11月11日)のキャンペーンが始まった年でもありました。我々は歴史的な第一歩となる1年目のキャンペーンにも参加しました。

 中国のオンラインショッピング市場の成長は驚異的ですね。天猫の独身の日の売上が約5000万元(現在のレートで約10億円)だったことを思うと、現在の売上規模が約3100億元(現レート換算で約6兆2000億円)に達するとは驚くばかりです。この間の成長率はなんと6200倍にも上ります。中国の経済成長の速さには、本当に驚かされます。

 彼らとのパートナーシップによって、我々も中国のWEB市場で急速に成功を収めることができました。

 上海の若者2名は、我々と協力し、時代のトレンドセッターとなりました。社長はレクサス、副社長はBMWに乗り、颯爽とした姿で街を闊歩していました。

(続く)

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